漁業法改正
漁業法の改正
先日漁業法の改正の法案が成立しました。
70年ぶりの改正だそうです。
70年????という長い間改正されないとは、改めてこの業界の時の流れのすごさを感じました。良い面も悪い面もありますが、この辺りの時の流れがこの業界の特徴ですね。
農業・食品会計士のブログということで私が感じたこと、概要をまとめてみました。
改正の理由
世界的に水産物の需要は増加している一方で、日本の場合水産資源の減少や仕事がきつい面もあることから生産量、就業者ともに長期的に減少傾向にあります。
しかし、日本の周りには世界有数の広大な漁場が広がっていることや養殖技術の発展二よりまだまだ成長余力があります。
適切な資源管理をし、水産業の成長産業化を両立させるため、今回法律改正がなされました。
改正の概要
主に以下の5つの改正がなされています。
新たな資源管理システムの構築
⇒科学的根拠に基づき目標設定、資源を維持回復
生産性の向上に資する漁業許可制度の見直し
⇒競争力を高め、若者に魅力ある漁船漁業を実現
養殖・沿岸漁業の発展に資する海面利用制度の見直し
⇒水域の適切・有効な活用を図るための見直しを実施
漁村の活性化と多面的機能の発揮
⇒都道府県に権限と責務があることを明示
水産業協同組合法の改正※漁業法ではないですが、合わせて改正
⇒水産改革に合わせた漁協制度の見直し
(農水省HP「漁業法等の一部を改正する等の法律案の概要」より)
70年ぶりの改正ということでそれぞれ、大きな改正がなされていますが、今回は養殖業に注目して行きます。
養殖業の現状
水産資源が減少傾向にある中で養殖は注目度、成長余力ともに高い分野といえます。各漁協、個人の努力や日本の技術力が高いこともあり、養殖業に参入したいと考える企業も増加しています。
しかし、いざ養殖に参入しようとしても技術面だけではなく、規制面、実務面で様々な課題があります。
誰もが自由に養殖、漁を行ってしまうと、乱獲や漁場の汚染等々につながる可能性があるため海の上での養殖は、各社が自由に行うことは出来ず漁業権が必要です。
ではこの漁業権はどのようにして決まるのでしょうか。
水産庁がまとめている資料が分かりやすいので以下引用いたします。
漁業関係者の要望や漁場条件の調査(都道府県)
↓
漁場計画案の作成(都道府県)
↓
海区委への諮問・答申(都道府県⇔海区委)
↓
漁場計画の公示(都道府県)
↓
免許申請(都道府県←申請者)
↓
海区委への諮問・答申(都道府県⇔海区委)
↓
免許(都道府県→申請者)
※海区委(海区漁業調整委員会)・・・公選による漁民委員9名、知事選任による学識経験委員・公益代表委員6名の計15名で構成。
(農水省HP平成30年11月「漁業法等の一部を改正する等の法律案参考資料」より)
このように地元の漁業者、自治体と調整が必要です。
昔から地元の方々が大切にしてきた海ですから当然ですね。
ただ現状の養殖業においては、サーモンやマグロのように大資本でなければ、養殖を続けることが難しいことや、企業に就職して安定した収入を得たいというニーズもあることから企業が養殖業への参入を促す必要が出てきたのです。
そこで企業参入を促そうとしたのですが、養殖業のメインとなる特定区画漁業権においては以下のように免許の優先順位が決まっています。
①地元漁協(組合員が行使)
②法人(地元漁民7割以上)
③法人(地元漁民7人以上)
④既存の漁業者等
⑤その他
これは歴史的に地元漁民が共同で利用してきたた背景があるので、地元を優先にしてきたのです。
良し悪しありますが、これでは有力な異業種の企業が養殖に参入しようとしても順位が非常に劣後であり、実態として中々参入が出来ませんでした。
改正後
今回の改正で優先順位の条項が削除されました。
今後は生産量の拡大、雇用の確保、漁業者の所得向上等の水産業の成長に寄与する企業に漁業権が与えられることとなりました。
これにより、異業者や大企業等が漁業権を保有し、海上養殖がしやすくなることが期待されています。
サーモンやクロマグロなど、人気の魚の養殖が進めば私たちも手に取りやすくなるかもしれません。
一消費者としてはメリットも大きいです。
一方で、当然リスクも伴います。
地元漁業者からすれば、大資本がやってきて仕事を奪うことや数年で撤退して漁場があれる等々心配事、リスクがあることも事実です。
大資本等が参入したとしても多くの場合、現場で働くのは地元の漁業者になることが多いので、しっかり地元の漁業者、自治体と協議し、うまくやっていけるかが成功のカギになりそうです。
最後に
どんな法律改正もメリット、デメリット両面がありますが、新たな市場参加者が入ってこなければどのような産業も成長することは難しいので、今回の改正を機に水産業が成長産業になることを期待しています。
また詳しくは触れませんでしたが、水産業協同組合法の改正では全漁連が行っていた監査業務を公認会計士に移管していくこととなっており、公認会計士の果たす役割は広がりつつあります。
漁業のことを理解している公認会計士はまだまだ不足しているように思います。そんな中で役割が広がっても、期待に応えられるかはわかりません。
1次産業、食品分野はネットで検索しても分かりにくいことや、どこにも出てこないことがたくさんあるので少しずつ記事を書いて、少しでも業界の理解が広がるようにしたいと思います。